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日経優秀製品・サービス賞2023

日経優秀製品・サービス賞2023

最優秀賞

(生産財5点、消費財5点、サービス6点)

ネジ「SiCネジ」
生産財

ネジ「SiCネジ」

鍋屋バイテック会社

 ダイヤモンド並みの硬度を実現した炭化ケイ素(SiC)を使ったネジ。SiC製ネジは日本初とみられる。カーボンとケイ素に成分非公表の添加物を混ぜた原材料を型に流し込み乾燥後にネジ形状に加工、セ氏1000度を超える高温で焼き固める。鉄の棒を加工していく通常の製造法とは全く違う工程を編み出した。
 人工知能(AI)分野などで需要拡大が期待できる次世代半導体向け製造装置での採用を見込む。これまで半導体製造装置のネジは製造工程で使うアンモニアや硫酸などの薬品に強いフッ素樹脂製ネジが使われていた。SiC製を実現することで耐食性を維持したまま熱に強くなった。約1600度の高温に耐えられ、より過酷な条件での製造が可能となる。
 鍋屋バイテック会社は戦国時代の鋳造事業が祖業で創業460年を超える。

耐水コーティング材「Sicle(サイクル)」
生産財

耐水コーティング材「Sicle(サイクル)」

信越化学工業

 段ボールに塗布して耐水性を持たせるコーティング材。主成分にケイ素を含み、ガラス質の透明な塗膜をつくる。段ボールにスプレーするなどして染み込ませて使う。例えば、段ボール箱に高圧シャワーで10分ほど散水すると通常は水を含んで自重で変形するが、サイクルを塗布した段ボールは原形をとどめることができる。
 置き配した荷物が雨に降られた場合でも商品を守ることができる。キャンプ用の椅子や荷物を載せる物流用パレットの段ボール向けでも需要があるとみる。耐火性も高まることから避難所の簡易ベッドや仕切り用途も見込む。
 従来の耐水製法に比べて、リサイクルしやすく環境負荷が小さいのも特徴だ。従来手法の樹脂はリサイクルする際に分離しづらいが、ガラス膜は溶解液に溶けやすく容易に分離できる。

電磁波の反射を防ぐ薄膜樹脂「ミリ波吸収フィルム」
生産財

電磁波の反射を防ぐ薄膜樹脂「ミリ波吸収フィルム」

東レ

 高速通信規格「5G」などを利用する通信機器に搭載し、電波のミリ波を吸収する薄膜フィルム。ミリ波はその高い周波数によって5G通信のさらなる高速化や大容量化を実現できるとして、工場や自動運転分野などで普及が期待されている。だが、ミリ波は障害物にあたると反射しやすい性質があり、通信機器の内部で電波が反射するとノイズとなり、誤作動を起こす可能性があった。これまでミリ波を吸収するために通信機器に搭載していた部材のシートは金属粒子を多く使うため、その重量や厚みが課題だった。新開発のフィルムは性質の異なる樹脂を何層にも重ねる独自技術によって、電磁波吸収シートの重さを従来品から9割減らし、厚みも8割減らした。通信機器の小型化などにつながる利点などをアピールし、販売拡大をめざす。

制振技術「BILMUS」
生産財

制振技術「BILMUS」

清水建設

 ビルの上層部と下層部を独立した構造にして積層ゴムやオイルダンパーで連結して制振する技術。地震発生時に上下層の揺れが打ち消し合うことでビル自体が制振装置となる。構造変形を抑える安全装置や、強風時のエレベーター運行に影響がでないようストッパーも設ける。
 野村不動産やJR東日本が計画する東京・芝浦の「芝浦プロジェクト」で、清水建設が2025年2月竣工をめざして21年10月から施工するビル1棟(地上43階地下3階建て、高さ約235メートル)で活用する。上層階をホテル、下層階をオフィスや商業施設として使い、上下層で異なる構造やデザイン性を実現できる。
 建物の基礎部分に積層ゴムを使う免震構造は、超高層ビルが高くなるほど効果が薄まる。建物の中心部に振動を抑えるダンパーを集中的に取り付けたり、屋上に重りを設置したりする従来の制振構造ではデザイン性で制約があった。

鋼材「薄物耐疲労鋼(AFD)」
生産財

鋼材「薄物耐疲労鋼(AFD)」

JFEスチール

 小さな衝撃が伝わることによる亀裂の広がる速度を抑え、一般鋼材と比べ耐久性を2倍ほど高めた。同様の鋼材はこれまでも販売してきたが、今回は板厚を従来の最小12ミリメートルから9ミリメートルに縮めた。薄くしたことで、自動車が何度も通る橋を支える部材などにも採用しやすくした。現場作業員の不足が懸念される中、補修工事の回数減などが期待できる。
 鋼材の耐久性と薄さを両立することは難しく、製造時に金属組織の細かい調整が求められる。今回は鋼材の冷却を制御する独自の製造技術を活用して材質を調整。板厚を縮めることに成功した。販売価格は一般鋼材よりは高くなる見込みだが、既に採用に向けた具体的な問い合わせが来ているという。

服薬補助食品「おくすりパクッとねるねる」
消費財

服薬補助食品「おくすりパクッとねるねる」

クラシエ

 性質の異なる粉を混ぜ合わせて色の変化を楽しむ知育菓子「ねるねるねるね」を服薬補助向けにアレンジした。粉薬や顆粒(かりゅう)薬などの薬を包んで食べ、子どもが楽しみながら服薬できるようにした。粉は1種類とし、アレルギー物質や薬の効き目に影響を及ぼす可能性のあるカルシウムは使っていない。短期間で使い切る必要がなく、個包装で長期保存できる点も特徴だ。入院している子どもの服薬補助にねるねるねるねを使っているという医療現場の声をもとに、薬剤師らと3年ほどかけて商品開発した。
 2022年12月から一部のドラッグストアでテスト販売し、SNSで子を持つ親や医療関係者の間で話題を集めるなどして好評を博した。23年10月からは全国のドラッグストアを中心に本格販売を始めた。

日焼け止め「ビオレUV アクアリッチ アクアプロテクトミスト」
消費財

日焼け止め「ビオレUV アクアリッチ アクアプロテクトミスト」

花王

 日焼け止めとしては珍しいミストタイプの商品になる。一般的な白いクリームタイプなどは塗る際に白くむらが出てしまったり手がべたついたりといった理由で外で利用するのをためらう人が多かった。今回の商品は液体をミスト状で霧吹きのようにして使用するため、むらが発生しにくい。噴出時にはガスも使用しないため、周囲の目を気にすることなく塗れるようにした。逆さまにしても利用でき、背中など自分で塗りにくい箇所にも手軽に噴霧できるようになっている。
 店頭想定価格は1080円前後。同社の従来商品よりも一段高い価格設定ながら、2023年11月末までの出荷本数が670万本と記録的な売れ行きとなっている。

食品「パキット」
消費財

食品「パキット」

永谷園

 袋の中に乾麺と水を直接入れ、電子レンジで加熱することでパスタが調理できる。パスタソースを袋ごとレンジで温めながらその中で麺を同時にゆでる発想の商品はこれまでになく、発売から半年で100万食だった販売目標を2カ月で突破した。食事に「タイムパフォーマンス(タイパ)」を求める単身社会人を中心に支持を集めた。
 パスタを作る際にソースと別に麺をゆでるのが面倒だという、開発担当者の体験を基に開発を進めた。同じ条件で加熱しても電子レンジによって仕上がりに差が出るのがネックだったが、加熱後にレンジ内で蒸らす工程を採用したことで機種によらず仕上がりが安定するようになった。
 麺の束を半分に割って袋に入れることから「パキット」という商品名にした。希望小売価格は税抜き300円。

冷暖房ウエア「WindCore ICE×HEATERペルチェベスト」
消費財

冷暖房ウエア「WindCore ICE×HEATERペルチェベスト」

ワークマン

 パナソニックホールディングス子会社のShiftall(シフトール、東京・中央)と共同開発した、ボタン一つで冷却と暖房機能を切り替えられる機能性ベストになる。電気の制御で冷却や加熱を自由にできる半導体素子「ペルチェ素子」を使い、セ氏10度か同42度で調節できる。薄型ベストのため作業服の下に着ることができ、消費者からは通称「着るエアコン」と評されることも。
 2023年夏の記録的な猛暑で工事現場の職人だけでなく、スポーツ観戦やアウトドアの需要も開拓した。価格は1万9800円とワークマンの商品では高価格帯だが発売から約3カ月で通年の販売計画数だった約3万着が完売した。24年春には機能性などを向上した新シリーズを展開する予定だ。

乳液「B.A ミルク フォーム」
消費財

乳液「B.A ミルク フォーム」

ポーラ

 乳液としては珍しい泡状の製品だ。炭酸を配合しており、容器を振ってからボタンを押すと泡状になった液が出てくる。塗った後にシュワシュワとしたさわやかな清涼感も感じられる仕様になっている。「夏に使うとべたつく」といった消費者の声に応えた商品で、夏場は需要が特に増えた。
 価格は1万3200円。同社の中でも高級ブランドの一角である「B.A」シリーズより一段安い設定とし、より顧客の裾野を広げるエントリー商品としても位置づけた。従来の主要顧客である40代の消費者だけでなく、20~30代の顧客も開拓できているという。
 出荷本数は2023年11月中旬までで約15万本と初年度計画比で1.8倍となっている。増産体制を整えながら販売を続けている。

サーマル印刷技術「ラベルレスサーマル」
サービス

サーマル印刷技術「ラベルレスサーマル」

RNスマートパッケージング

 熱を加えることで、紙のシールなどを用いずに食品パッケージに直接印字できる印刷技術になる。大手コンビニチェーンのサラダパッケージに採用された。サラダの蓋となるフィルムの印字したい範囲に、あらかじめ特殊な塗料を塗っておく。印刷ヘッドで熱をかけると、字画になる塗料が溶けて黒くなり、文字情報になる。
 かつてFAXの感熱紙やゴルフ練習場のポイントカードで実用化されてきた、感熱(サーマル)印刷を応用した。塗料の成分調整手法を新たに発明し、食品パッケージに使えるようになった。
 従来の紙製シールでサラダが隠れる課題が改善した。他社技術と組み合わせることで密閉できるようになり、賞味期限が延びる効果もあった。採用したローソンでは使用プラスチックを年間11トン削減できるとみる。ラベルを貼る作業が減ると見込む。受注元のカーボンニュートラル推進や生産性向上に貢献できる。

個人顧客向け総合金融サービス「Olive」
サービス

個人顧客向け総合金融サービス「Olive」

SMBCグループ

 銀行やクレジットカード、証券、保険などの金融サービスを1つのアカウントにまとめ、スマートフォンアプリで一体的に提供する。2023年3月に提供を始め、同年11月時点で140万の会員を獲得した。
 キャッシュカードやクレジットカード、デビットカード、ポイントカードを1枚にまとめ、スマホアプリで決済機能を切り替える。決済などでたまる「Vポイント」は世界のVISA加盟店で使える。コンビニなどの一部店舗やSBI証券での投資信託購入で高いポイント還元率を提供し、若者をひき付けた。利用者の半数が20代以下だ。Vポイントは24年春にカルチュア・コンビニエンス・クラブの「Tポイント」と統合する予定になっている。統合後の利用者は延べ8600万となる。

日本初LNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」
サービス

日本初LNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」

商船三井

 日本で初めて液化天然ガス(LNG)を燃料とした大阪―別府の航路を結ぶフェリー。LNGと重油を燃料として使用できる高性能エンジンを搭載している。二酸化炭素(CO2)の排出量を既存の船に比べ25%削減できるほか、硫黄酸化物を出さず、窒素酸化物も85%削減することができる。
 物流の2024年問題にも対応するため、積載できるトラックの台数を137台と既存船に比べ5割増やし、ドライバーズルームも拡充した。乗客1人あたりの面積も約1.5倍、大浴場は2倍に広げ、レストランの席数も1.5倍に増やして「カジュアルクルーズ」として快適さも向上させている。

商業施設「北海道ボールパークFビレッジ/エスコンフィールドHOKKAIDO」

(C)H.N.F.

サービス

商業施設「北海道ボールパークFビレッジ/エスコンフィールドHOKKAIDO」

ファイターズ スポーツ&エンターテイメント

 プロ野球・日本ハムの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を核としたボールパークで2023年3月に開業した。新球場の周りには商業施設やマンション、農業学習施設などが集積する。28年4月には北海道医療大学が新キャンパスをFビレッジ内に構える。
 新千歳空港と札幌市の間に位置し、野球の試合がない日でも観光客が大勢来る。Fビレッジは23年9月に開業からの来場者数が累計で300万人を突破した。
 新球場の総工費は約600億円。球場内には宿泊施設や温浴・サウナ施設が入り、クラフトビール大手のヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)のビール醸造所併設レストランが入居する。球場は国内で初めてとなる天然芝で開閉式屋根を採用した。

真空パック&吸水台紙「フレッシュ・プロ」
サービス

真空パック&吸水台紙「フレッシュ・プロ」

コスモテック

 ユニ・チャーム子会社のコスモテック(香川県善通寺市)が開発した肉や魚などの生鮮食品を長持ちさせる真空パック。包装袋の内側や吸水シートに、特殊な抗菌成分を塗装加工することで、通常は冷蔵保存で数日程度しか持たない生鮮食品の賞味期限を最大で2~3週間まで延ばすことができる。小売店などでの値引きや廃棄による損失を減らせる利点がある。食品ロスを減らしてSDGs(持続可能な開発目標)の実現にも役立てられる。
 近年は肉を寝かせることでうまみが増す「熟成肉」の需要も高く、肉を熟成させる用途向けに外食チェーンや小売店への販売にも力を入れる。2023年4月から販売を始め、食品加工会社や外食チェーンなど約10社から引き合いがあるという。価格は牛肉200グラムの包装用で70円前後。

次世代型路面電車「芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)」
サービス

次世代型路面電車「芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)」

宇都宮ライトレール(宇都宮市、芳賀町)

 宇都宮駅東口―芳賀・高根沢工業団地(14.6キロメートル)を次世代型路面電車(LRT)で結ぶ路線で、2023年8月26日に開業した。国内での路面電車の開業は75年ぶりになる。宇都宮市と芳賀町が軌道や車両など設備を持ち、第三セクターの宇都宮ライトレールが運行する。整備費684億円の半分が国の補助で、残りを宇都宮市、芳賀町、栃木県が負担した。
 平日朝夕は8分間隔、平日の昼間と土休日は12分間隔で運行。交通系ICカード利用なら、すべての扉から乗降できる。途中には路線バスなどとの乗り継ぎ拠点を整備。マイカーがなくても移動できるまちづくりを目指す。
 平日は通勤・通学客、土休日は観光客、買い物客に利用され、開業から82日目に乗客100万人を達成した。24年春にも増発と路面電車では珍しい「快速電車」の運行も始める予定だ。

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